三位一体(1)

前回は,現実の物理現象の背後には「自己言及的」なルール(システム)があるのではないかと話した。しかし,これは現実の世界では在り得ないことでもあり,そのためこの基本ルール(システム)は観測不能ということに必然的になると思う。あるいはこの世界のどこかに潜在していると言ってもいいかも知れない。

 自己言及的なものに似たシステムの簡単な例として,「合わせ鏡」を思い出されるといいだろう。今,2枚の鏡の間にあなたが立っているとする。まず,右の鏡にあなたの姿が映る。これを左の鏡から見ると,あなたの後ろにもう1人のあなたが映っている。それが左の鏡に映る。すると,それを右の鏡から見ると,あなたの後ろにあなたがいて,その後ろにまたあなたが映っているのが見える。それが今度は右の鏡に映る。これを繰り返されることで,あなたが無限に増殖してしまう。

 1つ注意しておくべきは,この「合わせ鏡」の例は本当の意味の自己言及的ルール(システム)ではないということだ。というのは,あなた自身は最初から真ん中にいるからだ。つまり,一番最初の原因自体ははっきりしている。現実の物理現象の背後に潜む自己言及的ルール(システム)は,何が原因で何が結果か明白には区別出来ず(それ故,非常に対称性が高い),鏡と鏡のあいだに勝手に何か浮かんで来るようなイメージかもしれない。